special interview vol.5
清水玲/何かと何かの間を揺れ動く両義的な関係性
SICF11でスパイラル奨励賞を受賞した、清水玲さん。
SICF12 での受賞者展示でも、鑑賞者を圧倒するインスタレーションを展開しました。
今回は、国内に限らず海外にも活躍の場を広げている清水さんに、お話をうかがいました。
作品について
私は、私たちが無意識のうちに自身を取り巻く環境を友好的なものと敵対的なもの、といった「何か」と「何か」を二分してしまう意識や力、また双方を揺れ動く両義的・両極的な関係性に着目した作品を制作しています。
例えば SICF に出展させて頂いた作品《 CNJPUS TEXT 》は、既存の漢字を借用・筆画の疎抜というプロセスから組み立てた「換字」としてのアルファベットですが、そのプロセスを CNJPUS としてのテキスト(英文)と疎抜された筆画の散乱というかたちで空間に置換することで、古来より外の世界から取り入れたものを模倣しては経験し、すぐに自身の環境に適するように改良してきた日本人特有のキャラクターを表象しようとしています。
写真左右) CNJPUS TEXT/ Photo : 清水 玲 (十和田市現代美術館での展示風景)
記述されるテキストは、この作品を考案した初期の頃(2009年)は第二次大戦中の暗号や声明文など、過去の事実としてのテキストを引用していましたが、近作では私自身の記憶や夢で見た光景、実際に起きた事件や社会現象、展示する街に住む人との会話やその街の伝統行事などから、ある種の平行世界としての寓話を書き下ろしています。
写真左) CNJPUS TEXT(壁面のテキストの様子)/ Photo : 清水 玲
写真右) CNJPUS TEXT(床に散乱する筆画群)/ Photo : 清水 玲(ともに十和田市現代美術館での展示風景)
また近作では、私自身が国内外関わらず様々な都市に訪れて、そこに住まう人々に街の特徴や風習などをインタビューした映像に CNJPUS で字幕をつけるという作品《 subtitle 》に取り組んでいます。映画やテレビ番組に欠かせない字幕は、言語の壁を乗り越えると同時にそこに決定的な境界があることを明示しますが、CNJPUS による字幕はそのような境界を滑稽に炙り出します。またインタビューは、そこに住まう街の名称を言わずに、つまり主語の不在というかたちで語ってもらい、実際の展示ではそれらを混在させることで展示する場所と作品に映る場所との関係性を曖昧にし、「今」いる場所について再考する、という試みを行っています。
写真左) subtitle と CNJPUS TEXT/ Photo : 清水 玲(SICF11受賞者展での展示風景)
写真右) subtitle / Photo : 清水 玲(十和田市現代美術館での展示風景)
制作活動のきっかけ
もともと文化の成り立ちやその背景に関心があり、学生時代は建築や都市計画を学び、卒業後は建築やインテリアの設計業務に携わりつつ、ブランディングやアートディレクション業務を担当していました。様々な業種の企業や病院、店舗を経営されている方々とのお仕事を通じて、必然的に社会における ART の役割や可能性、アートリテラシーについて考えるようになり、作品をつくることでそれを実践していくようになりました。
このような経験と実践の反復作業は、冒頭でふれた「何かと何かの間を揺れ動く両義的な関係性」にも繋がっていると思いますし、ART の文脈に自分の作品をアイデンティファイさせていくかを試行錯誤する一方で、ART が個人の想像力に働きかけ、個人がいかに個人として生きるかを考える契機と成り得るかという問いが、いつも頭の片隅にあります。
今年の1月から2月にかけて十和田市現代美術館および中心商店街各所を舞台に開催された企画展では、まさにその経験と実践の反復作業を体現するような試みでした。この展覧会は、十和田に住まう人をテーマにした公募作品と私の作品とを美術館企画展示室および中心商店街に展示し、私は約1ヶ月間街なかで滞在制作を行い、ワークショップなどを通じて美術館と街なかをつなぐ役割を果たしました。
写真左) 清水の肖像画を描くワークショップで仕上がった31作品(十和田での滞在制作から)/ Photo : 清水 玲
写真右) 公開制作を経て仕上がった31作品(十和田での滞在制作から)/ Photo : 清水 玲
《31人のトワダビトに描いてもらったトワダビトになろうとする私、あるいは2011年1月30日の私》
・・・清水の肖像画を描くワークショップで仕上がった31作品をそれぞれ等しく切断し、部分を相互に交換していくことでつくる自画像
今後の活動について
企画段階も含めて予定している展覧会がいくつかあり、それに向けての新作や既存作品のブラッシュアップに取り組んでいます。また最近、様々な国のメディアから取材を頂く機会が増え、改めて自らを見つめなおすいい機会になっています。今後は国内外問わず様々な場所でより多くの経験をつみ、そこからさらに次につなげていきたいと思っています。
私たちをとりまく世界はいま、国家や企業・組織に頼らない個人のあり方が問われる時代へと大きく変わろうとしています。だからこそARTのあり方やアートリテラシーの大切さが問われ、自分は何ができるかを自分なりに考えなければならない時期にあります。とは言え自分は作家である以上、作品に力がなければ生き残っていくことはできません。焦らずに目の前のこととしっかり向き合い、一歩ずつ進んでいきたいと思います。
それと最後にもう一点。
今年の冬の十和田での展示や滞在の様子を振り返りつつ、十和田という場所性、地域性、都市と地方・街と個人との関係性、またARTとの関わりとこれからの展望などをまとめたBOOKをまもなくリリース致します。是非こちらの方もご覧になって頂きたいと思います。
【インタビュー:2011年8月6日 スパイラルにて】
プロフィール
清水 玲 (しみず りょう)
1977年香川県生まれ。2010年、第2回モスクワ国際ビエンナーレfor Young Art出展、2011年1月、十和田市現代美術館および中心商店街各所にてアノニマスカワード企画展 街なか美術館 「トワダビト:⇔清水玲」出展 等
HPアドレス
http://ryoshimizu.jp/
2010年 | トーキョーワンダーウォール2010 平面部門 / 入選 |
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2010年 | SICF11 / スパイラル奨励賞 |
2010年 | 第13回 文化庁メディア芸術祭 / アート部門 / 静止画 / 審査委員会推薦作品 等 |