special interview vol.11
切り絵美術家 悠 × アートコレクター武内竜一
SICFで出会った作り手とコレクター、作り手たちのそれから
2012年のSICF13にて、初出展にして南條史生賞を受賞。そして現在は国内外のギャラリーで発表を行うほか、アパレルブランド「VIVIENNE TAM」とのコラボレーションやオーダーメイド作品も手がけているという切り絵美術家、悠(はるか)さん。2001年に制作を始め、独学で切り絵の表現を追求してきた悠さんにとって、様々な出会いがあったSICFは大きな転機となった。映像制作プロデューサーであり、若手アートコレクターの武内竜一さんも、SICFで悠さんの作品に出会ったコレクターの一人。ここでは、SICFをきっかけに出会ったお二人のその後について、作品について、語って頂いた。
悠
2001年に独学で切り絵制作を開始。2012年、SICF13にて南條史生賞。以後、VIVIENNE TAM 青山路面店にて個展、レントゲンヴェルケの取り扱いによって出品・出展を行うなど、国内外で精力的に活動を展開している。
武内竜一
映像制作プロデューサーであり、若手アートコレクター。アート文化の定着を最終目標に掲げ、コレクターコミュニティーの形成、コレクターと若手アーティストを繋ぐ活動のイベントプランニングなど行っている。
ジャンルが限られていなかったので、飛び込みやすかったんですよね。(悠)
-悠さんがSICFに応募されたのは、どんなきっかけだったのでしょうか?
悠:私、SICFに出展するまでは、他のコンペに出しては落ち、出しては落ち、ということをくり返していました。切り絵にフィットするようなコンペが見付からず、私自身どこで発表したらいいかわからない、これからどういう方向へ進んでいったらいいかわからない、と悩んでいました。そんな時に友人がこのSICFのことを教えてくれて、応募してみたんです。SICFはジャンルが限られていなかったので、飛び込みやすかったんですよね。
-武内さんが一番最初にSICFにいらっしゃったのはいつ頃でしたか?
武内:5、6年前ぐらいからですかね。それからは、前期、後期、共に毎年見に来ています。
-どこに魅力を感じて足を運んで下さっているのでしょうか?
武内:他のアートフェアにも行きますが、SICFではいわゆるアート業界が提案しているものとは、全然違うものに出会える。若いコレクターやギャラリストなんかも結構見に来ていて、後から「あの作品良かったね」とか、何かと話題になりますよ。アートファン以外の人たちも来やすいんじゃないかな。ブースに作家さんがいるというのも面白いんですよね。アートって「なんでこんなもの作ったんだろう?」という意味のわからないものも沢山あるじゃないですか(笑)。それをその場で直接作家さんに質問できるというのは、とても面白いことなんじゃないかな。
作家さんと話すことによって、作品が自分によって来るというか近くなるんです。(武内)
武内:僕の場合、作家さんがどういう意図で作ったのかとか、話してから作品を買いたいんです。話したことによって「あ、買ってみたいな」と思わせられたりするので。"作品"と聞くと遠く感じてしまうけど、作家さんと話すことによって、作品が自分によって来るというか、近くなるんです。逆に話していて「もしかして今じゃないのかな」、「もうちょっと待った方がいい作品ができるのかな」と思うこともあります。
-武内さんは奥様とアートをコレクションされているそうですね。
武内:そうです。でも、SICF13の時はかみさんと夫婦喧嘩をしていて一緒に来れなくて、僕一人で悠さんの作品を見て、いいなと思っていたんですよ。それからその年の秋に「+プリュス:ジ・アートフェア」に出展されていた悠さんの作品を見て、そこでは2人の意見が一致したんです。それですぐに購入を決めました。その時も夫婦喧嘩していたら買えなかったかもしれないですね(笑)。
色々と迷っている人が出展するのはいいのかもしれないね。(武内)
武内:SICFは作家さんも話すことを鍛えられますよね。一日に何回もお客さんと話すでしょ?
悠:そうなんですよ。ガンガン突っ込んだ質問をしてこられる方もいて、私自身話しながら「あ、そうだ、こういうことだ」と気づかされることも多かったです。会期の後半には説明の精度が上がって、コンセプトが出来上がっていたりして。それまではお客さんと直接お話しする機会がなかったのでびっくりしましたし、面白かったです。
-ギャラリーで発表するのとは違いますか?
悠:そうですね。まさかあんなに話しかけられるとは、って感じでしたね。特に私は自分の方向性に悩んでいた時だったので、自分を発見する場にもなりました。自分の作品のことを口に出して説明するというのは、結構大きなことなんだな、と。そういうやりとりがないと、結局自分一人で考えて作るだけで、一方通行になってしまうじゃないですか。色々な方と話して、自分の中に埋まっていたものを掘り起こされていくような感じでした。
武内:色々と迷っている人が出展するのはいいのかもしれないね。
見て下さっている人がいることが、今の自分にとっていい意味でのプレッシャーになっています。(悠)
-武内さんは悠さんにアドバイスされたりしますか?
武内:僕、したことないよね?
悠:でも、駄目な作品を作るようになったら、作品を返すと言われました(笑)。そうやって見て下さっている人がいることが、今の自分にとって、いい意味でのプレッシャーになっています。やっぱり作っている以上、見てくれる方がいないと作れないので。その方たちにがっかりされてしまうのが、一番辛いかな。それって、ある意味プロ意識なんじゃないですかね。
武内:なるほど。
悠:それまでは、自分の中にそういう意識がなかったということにも気づきました。今は "コレクターさんのもっている作品の価値が下がるようなことは絶対しない"とか、決心しているところがありますね。
−やはりコレクターさんの意見は大事なんですね。
悠:そうですね。でも一時期、あまりにも真に受けてしまって。コンテンポラリーという枠にとらわれ過ぎてしまったのか、見事に3ヶ月ぐらい、何も作れなくなってしまったことがあったんです。作っても作っても、全部駄目で。これはあかん、と思いました。
武内:それはよくある話だね。
悠:それで立ち直ろうと思って、1から自分が本当に作りたいものを作って、やっとまた作れるようになりました。その時期を経たことによって、自分の中に新しい視点が出てきたので、迷った時期があって良かったのかなと思っています。
-武内さんも作家さんとのお付き合いは深いのでは?
武内:いやー、そんなことないですよ。随分うとまれています(笑)。でも、作品を買うって、やっぱり大きなことだと思うんですよ。家にあるわけですから。思い入れがありますし、彼女のようにどんどん成長している人たちもいて、量販されているものみたいに買って終わりではないんですよね。実際に悠さんの作品はどんどんいいものになってきているし、意味わかんないな、と思う作品があっても、幅を広げようとチャレンジしている時なんだな、と思って見ています。成長しているなあ、頑張っているんだなあ、と見ているのが、ものすごく面白いんです。
-長いスパンで作品と付き合っていくというのは、どういう感じですか?
武内:作品って、その時のメンタリティによって見え方が変わってくるんですよ。例えば悠さんの作品だったら、あの細い緊張感のある線を、紙を切って出しているわけじゃないですか。そういう緊張感が伝わってくる時と、こない時があるんです。それは美術館やギャラリーでは、体感できないことなんじゃないかな。買ってから一年以上経ってから、こんな線が描かれていたんだ、と気づく時もあるし、作品とタイトルの結びつきに気づいたりすることもある。そういうのが面白いんですよね。作品に対して、また親近感がわいてきたり、僕自身の視点が変わったりする。だから、これからまた悠さんの作品から違った側面が見えてくるかもしれないと思うと、楽しみですね。
ただ作りたい一心で作ってきたのが、色々な人に見てもらって、自分も色々な作品を見るということをしたら、自分の足りていなかった部分がはっきり見えてきた。(悠)
−悠さんはSICFに出展され、色々な変化があったんですね。
悠:とても変わりました。生活も変わりましたけど、作るということ自体が変わりました。何もわからず、ただ作りたい一心で作ってきたのが、色々な人に見てもらって、自分も色々な作品を見るということをしたら、自分の足りていなかった部分がはっきり見えてきた。コンセプトの立て方もわかるようになってきましたね。大きな二年でした。
武内:SICFは作家さんが次のステップをつかむためのきっかけとして、すごくいいと思います。全員が全員、悠さんのようにステップアップできているわけではないかもしれないけど、賞をとるということ以外にも、色々な可能性があるんじゃないかな。登竜門といったらちょっと堅いかもしれませんが、自分の方向性がわからないという人にもいいと思います。
悠:今まで作品を売ったことがないという方も、どういった展開、自分自身の変化が起こるかわからないので、おすすめですね。出展作家や来場者の人たちやコレク
ター、キュレーター、ギャラリストさんたちといった幅広い方々とお話ができるチ
ャンスというのはなかなかないと思います。
-お二人の今後のご予定などありましたら教えてください。
武内:3 月7日から、3331 Arts Chiyodaでコレクターが集まって行われる「Collectors' Prizes」という展示会に参加します。新作を含め、コレクターや会場のキュレーターが選んだ30人ぐらいの今後有望な作家の作品を展示する予定です。
悠:私は春ぐらいにアパレルブランド VIVIENNE TAMとコラボレーションをさせていただきます。私の描いた図柄をTシャツにしていただけるということで、私自身とても楽しみです。
武内:期待しています(笑)。
悠:はい。私は自分で自分を追い込んで頑張る方なので(笑)、頑張ります。
インタビュー・文 宮越裕生