special interview vol.4
藤本雄策/自分よりも時間をかけて成長してきた存在に対し、新たな命を吹き込む
木材の無垢の色を使った、手作りで温かみのある果物やからくり細工の作品が評価され、SICF10で松永英伸賞を受賞した藤本雄策さん。藤本さんのチリトリと、吉田慎司さんの箒(ホウキ)を一緒に展示した 「丁寧ナ手仕事展」が、2011年1月22日から30日まで東京・西荻窪にあるGallery みずのそらで開催されました。展覧会開催までの経緯、自身の作品や今後の活動などについてお話をうかがいました。 (吉田慎司さんのインタビューはこちら)
丁寧ナ手仕事展 開催までのいきさつ
吉田さんとの出会いはSICFでした。僕が出展した際に吉田さんが前回の受賞者として展示をしていました。それからは別のイベントなどでお会いする機会がありました。その後、僕が参加したグループ展に吉田さんがいらして、展示していたペン立てを気に入ってくださり、チリトリの制作を依頼されたのだったと思います。展覧会の会場や企画自体は吉田さんが決めて持ってきてくれました。
丁寧ナ手仕事展
作品について
一般的に抱かれている木の色のイメージに反する、実際の無垢の木の色の多様さを強調した作品を作っています。無着色で木のそのままの色を活かすことに重きをおいています。また、作品に対して枠はあまり持たないことにしています。からくりも作ればバナナのようなアートじみたオブジェも作りますし、日用品も作ります。からくり作品はどんな人でも年齢に関係なく楽しめる作品を心がけています。ただ「動く」というプリミティブなことで、そこにはどんな壁も無いはずだと思っています。日用品に関しては飽きのこない一生使えるものを作ることを目標としています。
木を使うということ自体、生半可なものを作ってはいけないと思っています。自分よりも時間をかけて成長してきた存在に対し、新たな命を吹き込むことで木と人との関わり合うきっかけをつくり、永く木の道具としての命を全うしてもらう、そんな活動なのだと思っています。
丁寧ナ手仕事展
制作活動のきっかけ
小学生か幼稚園のころから祖父の会社でアルバイトをしていました。丸い穴に木工用ボンドを入れ、そこに木の棒を打ち込む。こんな楽しいことをしてお金がもらえるなんて、大人はなんて幸せなんだろうと当時思っていました。大学入学後は木工を専攻し、そこで「赤い木(パドック)」に出会いました。その存在を知ってはいたものの、実際に実物を見た時の鮮やかさ、美しさへの驚きや感動を他の人にも伝えたいと思ったのが、現在に至る作品作りのきっかけです。
しばらくは思ったようにうまく表現できず試行錯誤が続きましたが、2年ほどブランクの後、ずっと作ってみたかったリアルサイズの果物を作りこむ機会が訪れ、バナナとリンゴを制作しました。これで伝わらなければ、作家として活動することはおしまいにしようと内心思っていましたが、作品を観た方々から「こんなに鮮やかな天然の色の木があるのか」という反応を初めて得ることができました。この作品で「方向性の模索」から「作品や技術を深く突き詰めていくこと」へ踏み出すきっかけを掴むことができました。
今後の活動について
チリトリに関してはこれからも突き詰めていき、もっと良いものを作りたいですし、吉田さんとは今後も何か一緒に続けていけたらと思います。掃除関係で仲間が増えると嬉しいですね。それに加え、からくり系の作品、無着色でリアルに作りこむ作品の制作を続けること。また、新たな表現方法も探していくつもりです。出来る限り枠を作らず、面白い、良いと思ってもらえるような作品を作り続けていきたいです。
次は(2011年)4月末から5月はじめにかけてギャラリー元町で個展の予定です。小さめのギャラリーなので小型のからくりを作れると良いなと思っています。
写真左から) ペン立て/SICF10でも展示したからくり作品
【インタビュー:2011年1月28日 丁寧ナ手仕事展会場にて (Gallery みずのそら/東京・西荻窪)】
プロフィール
藤本 雄策(ふじもと ゆうさく)
1982年 群馬県に生まれ。
武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業。
現在、イラストレーター平田茉衣と845(ハシゴ)を結成し活動中。
http://845-y.main.jp/index.html
2010年 | ぬくもりの部屋展(mono gallary/東京・吉祥寺) |
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2011年 | 丁寧ナ手仕事展(ギャラリーみずのそら/東京・西荻窪) |
2009年 | SICF10 松永英伸賞受賞 |
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2010年 | ほぼ日作品大賞 糸井重里賞 |
カクレカラクリ An Automaton in Long Sleep (MF文庫ダヴィンチ) 著者:森博嗣 出版社:メディアファクトリー |