INTERVIEW

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vol.14 SICF受賞者特別対談 塩見友梨奈 × ヤノベケンジ

special interview vol.14

アーティスト 塩見友梨奈 × 現代美術家 ヤノベケンジ

【※この対談は、2014年3月29日発行のスパイラルペーパーno.135に掲載されたものです。】

2013年に開催した「SICF14」にて、ビリー・ミリガンをテーマにした体験型作品『首吊りビリー』でグランプリを受賞した新進気鋭のアーティスト・塩見友梨奈。社会的メッセージを込めた巨大彫刻作品をはじめ、近年ではビートたけしや吉本新喜劇とのコラボレーションなど、アートの枠組みをさらに超えて活動を展開する現代美術作家・ヤノベケンジ。民間企業のコンペティションをきっかけにデビューを果したという共通点をもつお二人に、作品に込めた想い、アーティストとしての姿勢についてお話いいただいた。

ヤノベケンジ
1965年大阪生まれ。大阪と京都を拠点に活動。幼少のときに体験した大阪万博の跡地=「未来の廃墟」を創作の源泉とし、ロボットを主とした大型彫刻を制作。1990年代、世紀末の世界における「サバイバル」をテーマに、自ら『アトムスーツ』を着用してチェルノブイリを訪れ作品化。2011年の東日本大震災後は、希望のモニュメントとして、防護服のヘルメットを脱いだ6mの子ども立像『サン・チャイルド』を発表するなど世界規模で活動している。

塩見友梨奈
1987年奈良県生まれ。2010年京都造形芸術大学染織コース卒業。2012年京都造形芸術大学大学院修士課程芸術表現専攻修了。内と外が互いに干渉しあう「境界としての皮膚」をテーマに、カラフルな布をつぎはぎしたフォルムの人体を思わせる布造形作品を制作。また「不在の身体感覚」や「物体として取り残された肉体」に興味を抱き、身体の抜け殻のような作品群を制作している。

作家としての第二の誕生をむかえて

塩見:私は昨年「SICF14」にてグランプリ受賞をきっかけに、スパイラルでの初個展をむかえ、今回対談の機会をいただきました。そこで、「キリンアートアワード」受賞をきかっけにデビューを果たしたというヤノベさんとお話したいと思い、お願いしました。

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ヤノベ:光栄です。塩見さんが受賞した「SICF」と同様、僕自身も民間企業が主催するコンペティション「キリンアートアワード」が、はじめての受賞でした。大学院修士2年生で、まだ24歳の頃ですね。その際に発表した作品が、母胎内の体験を再現した巨大な瞑想装置『タンキング・マシーン』で、もう一度生まれ変わるように、作家としての歩みを進めていった。ある意味、それが僕の出発点となったんです。塩見さんも、これを機に第二の誕生をむかえ、これから拡大・成長していくんだろうと思いますね。

塩見:ありがとうございます!


ヤノベ:今回、お互いアーティストとして対談することになったのですが、実は、塩見さんは、僕がディレクターを務める共通工房ウルトラファクトリーがある、京都造形芸術大学で、僕たちが主催する「ウルトラアワード」というコンペでも選抜作家として選出されているんです。

塩見:私にとって「ウルトラアワード」は、大きな転機で、『首吊りビリー』もそこでの経験が影響しているように思います。それまでは、染織を専攻していて、身につけるものや着飾るものに興味があって、工芸的な作品を手がけていたんです。ただその背景にあったのは、着飾ることにより、人格に影響が出るということで。これまで感覚的に選定していた色や形について、改めてその理由を見つめ直す機会になりました。そこから人間の身体、皮膚や表面といった私自身が向き合っていきたいと思える根源的なテーマも見えてきました。

ヤノベ:近くで見ていても、彼女は「ウルトラアワード」で一皮むけた感じはありますね。

塩見:だけど、変わらないことは、ずっと人型の抜け殻をつくっているという意識ですね。制作を通して、いつも人の内側である内面と外側から見られた状態の違いについて考えています。だから、脱ぎ捨てたり、入ってみたりできる、さまざまな身体をつくっているのだと思います。


作品に隠されたメッセージ

23分間のドレス2_web.jpg

ヤノベ:「ウルトラアワード」では、"動く彫刻"のような巨大な作品を発表していました。

塩見:人間の呼吸は、23分間止まると死んでしまうという限界の目安の数値があり『23分間のドレス』では、呼吸のぎりぎりで繰り返して、生存を続けている抜け殻状態の身体を表現しました。23分間隔でしぼんだり、膨らんだり、それがまるで酸素が入って蘇生するような人間の生と死の境を行き来するようなテーマでした。

ヤノベ:「SICF14」での作品は?

塩見:ビリー・ミリガンという24人の人格を持った多重人格症の実在の人物をモチーフにした体験型の作品『首吊りビリー』です。子ども用につくられたテキスタイルをつなぎ合わせたブランコを宙づりにして、人格が入れ替わるビリーの精神状態を再現したんです。展示期間中は、たくさんの子どもたちが体験してくれました。

ヤノベ:どんなリアクションがありました?

「ウルトラアワード」で発表した
『23分間のドレス』(2012)


首吊りビリー_web.jpg

塩見:中は真っ暗なので怖がって泣いてしまう子もいれば、楽しくてなかなか出てこない子もいて(笑)、反応はさまざまでした。

ヤノベ:なるほど。子どもには母親の子宮にいた記憶が残っていることもあるから、大人が体験するよりスムーズに入っていけるように思いますね。

塩見:今回は、50kgの体重制限もあったので、子どもの参加が多かったのですが、確かにそうかもしれません。

ヤノベ:塩見さんは女性特有の繊細な感性の持ち主だなと思っていたのですが、今回の作品は"子どもとの親和性"があって、これまでの文脈にもつながるように思いますね。また今回は、サイズの制約があるなかで自らの世界観をつくるため、テーマを肉体的な拡張から心理的な拡張にずらした点が評価されていることも興味深い。その後は?

「SICF14」グランプリ受賞作『首吊りビリー』(2013)


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塩見:スパイラルでの個展「2780」です。私の出生体重である2780gをタイトルに冠し、胎児型の巨大なぬいぐるみが空気圧縮袋で圧縮されたイメージの『インスタントベイビィ』という作品を発表しました。

ヤノベ:また意味深なタイトルですね。

塩見:私は、結婚式場で結婚式当日の映像を撮影するアルバイトをしていたんです。最近よく、披露宴の最後に、今まで育ててもらった両親に感謝の意を込めて、自分の出生体重と同じ重さのぬいぐるみ"ウエイトベア"を渡す新郎新婦さんがいらっしゃいます。成長して家から出ていく新郎新婦の代わりに、出生体重のまま時が止まったぬいぐるみが両親のもとに戻るということに違和感があって。そういう経験から生まれた作品です。

ヤノベ:さまざまな意味を含んだ想像力をかき立てられる作品ですね。

SICF14グランプリアーティスト展
塩見友梨奈『2780』で発表した
『インスタントベイビィ』(2013)
撮影:市川勝弘


塩見:いつも一つのイメージに固まらないように心がけていて、一つの言葉で説明できないような作品になるよう意識しています。

ヤノベ:さきほどの体験型とは異なる彫刻作品だけど、一貫したテーマをもちながらも、いろんな表現方法を模索している感じがする。僕も『タンキングマシーン』という作品をつくったときに、自分のなかでイマジネーションの拡張がビックバンのように、いろんな方向に作品が展開していった時期がありました。その無数の可能性のなかから、僕の場合は、"サバイバル"というテーマを選んだ。今の塩見さんは、イマジネーションの広がりをたくさん持っている状態なので、いろんなものを模索し、これからその道を一つひとつ極めていく、本当に面白い時期なんだと思います。

塩見:最近、制作を通して、自分自身と向き合うなかで、私の世界観を、ジャンルや技法にしばられることなく表現していきたいなと考えています。

ヤノベ:僕自身もアーティストとして24年ぐらい続けてきて、生みの苦しみをはじめ、数多くの壁を乗り越えてきました。塩見さんは、それを乗り越えられる力量のある数少ない作家なんじゃないかなと思いますね。

塩見:ありがとうございます。

ヤノベ:最近、何度か塩見さんと同じ展覧会に出品する機会があったのですが、なんだか塩見さんに追いかけられるようだなと思えてきて......。「ウルトラアワード」をきっかけに、彼女の"パンドラの箱"を開けてしまったような(笑)。最近では、次代を担う才能のように思えて、なぜ僕はあのとき殺しておかなかったのかと今さら後悔しています(笑)。

塩見そんなこと言わないでください(笑)!

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つくり続けていくために

塩見:今回、グランプリ受賞という本当に素晴らしいチャンスをいただくことができ、これからも制作活動に力を入れていきたいと思っています。これまでヤノベさんが作家活動を続けてきたなかで大切にしてきたことはどんなことでしょうか?

ヤノベ:制作環境を整えること、モチベーションを維持し続ける状況をつくっていくことですね。どう継続していくかがとても大切だと思います。また、自分のなかに秘めた可能性を切り拓き続けていくことは、なかなか難しい。だけど、それができた瞬間、次の可能性が広がるんですね。僕自身、"何も無いところから、何かを生み出すことができる"という可能性に対して喜びを感じていて、その可能性の扉が開くことが生き甲斐でもある。だからこそつくり続けることができるんだと思います。

塩見:生み出す喜びの裏側には、生みの苦しみもつきまといますよね。

ヤノベ:うん、その継続が苦しいんだけれど、いつかその苦しさから解放されるときがくる。つくりたいものが次々と現れ、つくる状況も自然と整ってくるような状況が生まれてくる。それは、もう楽しくて仕方がないですよ(笑)。最近は、新たな挑戦として、異なる分野の方たちとコラボレーションをしたり、社会状況に対してもきちんとコミットしたりしていきたいと考えています。塩見さんは、挑戦してみたいことはありますか?

塩見:私はまだまだ作品の数も幅も少ないので、いろいろな表現方法を試してみたいなと考えています。一人で制作しているとつい考えがまとまりすぎてしまうこともあるので、ジャンルの異なる方とのコラボレーションにも挑戦してみたいです。

ヤノベ:最初は自分の内面から出発して、それとどう折り合いをつけていくかというフェーズ。これからは自分の作品が社会にどうコミットできるかを考えていくことになると思います。それがうまく接続できれば周りも受け入れてくれ、つくり続ける環境やチャンスを与えてくれるようになる。塩見さんにとっては、そのひとつのステップが、「SICF」で発動されたという気がします。ただそこがゴールではなく、さらに次のステージへ進んで、そこでまた涙しながら、苦しみながらやっていかなければいけない。その苦しみを乗り越えることで、キャリアを重ねていくことができるんだと思います。

塩見:そうですね。今年の「SICF15」でも、受賞者展という形で出品を控えていますし、初心を忘れることなく、さらにステップアップできるよう向き合っていきたいと思います。

ヤノベ:壁を乗り越える術を一つでも身につけていると、次の壁にも挑めるようになる。そういう意味でも、次回作が楽しみですね。だけど、次代を担う若手クリエイターを支援する「SICF15」からは、今年も新たな才能をもつ方たちがたくさん出てくると思います。塩見さん、くれぐれも油断しないように(笑)。


インタビュー・文 多田智美(MUESUM)
インタビュー写真 表恒匡