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SICF13 グランプリアーティスト展

佐野景子 『空気のしわざ』

会期: 2012年10月27日(土) - 10月29日(月)
会場: ショウケース(スパイラル1F)
主催: 株式会社ワコールアートセンター
企画制作: スパイラル

無色透明のガラスによって、空気の存在をユーモラスに表現。

2012年5月に開催したSICF13でグランプリを受賞した、佐野景子の個展を開催しました。

佐野景子は、空気や息、音などの目に見えないものをガラスによって可視化させる作品を発表しています。
SICF13出展作「声の風船」は吹きガラスの技法を用いた吹き出し型のガラスオブジェで、ダイナミックかつユニークで親しみやすいそのかたちは多くの来場者の心をとらえ、グランプリを受賞しました。

「声の風船」は軽やかな見た目とは裏腹に、実際には結構な重さがあります。ガラスという壊れやすく、緊張感を持った素材で声を表現する様は、軽やかに発する事ができると同時に、時として重みや危うさを持ち併せる言葉の特徴を、感覚的に表現しているかのようです。
日常の何気ない気づきから生まれる佐野のガラス作品は、私たちの日常に新鮮な視点をそっと吹き込んでくれます。

空気のしわざ_会場_8795.jpg
会場風景

声の風船.jpg
写真ともに「声の風船」


今回、スパイラルで開催した自身初の個展では、SICF13グランプリ受賞作「声の風船」に加え、新作を多数発表しました。
作家自身の息そのものが作品となる可能性に挑戦し、実際に佐野の'一息'がガラス内に込められた風船型の『私の一息 -風船-』とビニール袋型の『私の一息 -ビニール袋-』。

私の一息.jpg
写真左から「私の一息_風船」、「私の一息_ビニール袋」、「空気(の)椅子」


そして、『真空マジック』、『空気トリック』は空気があることと無いことで起こる日常の差異を、佐野自身が本物の電球を制作する事により提起しています。フィラメントがびっくりマークになっている二つの電球。『真空マジック』は点灯しますが、仕様も電源も同じだけれどガラス表面に穴があいている『空気トリック』は点灯しません。何故だかわかりますか?

瑞々しい感性で捉える日常のふとした気づきを純粋に表現した作品群。佐野の空気感に満たされた透明感溢れる展示となりました。

空気トリック_空気マジック_8756.jpg

空気トリック、空気マジックアップ.jpg

写真左から「真空マジック」、「空気トリック」


作家コメント

ものやかたちの作り方、作られ方が無数にある中で、吹きガラスという方法は、唯一「空気」や「自分の息」が直接かたちをつくることのできるたいへんユニークな技法です。
そんな当たり前の面白さへの気付きをきっかけに、自分の息が持つ可能性や、空気自体が存在すること/しないことで起こる日常での出来事、空気というものが含む解釈の幅や奥行き、いろいろなことが気になってきました。
今回の展示では、日常にある「空気のしわざ」を、私のちょっとしたイタズラとともに展示しました。

アーティストインタビューはこちら


SICF13グランプリアーティスト展 佐野景子「空気のしわざ」について

岡田 勉 (スパイラル/チーフキュレーター)

2012年5月に行われた、SICF13でグランプリを受賞した佐野景子によるグランプリ受賞副賞としての個展「空気のしわざ」がスパイラルショウケース(スパイラル1F)で行われた。

佐野はガラスのアーティストだ。
一般的に、ガラスを素材に制作するというとコップや花瓶、照明のシェード、といった暮らしの一場面を豊かに彩る機能を持った工芸やデザインのジャンルを想像しがちだが、佐野の作品は少々異なる。先ず、機能が無い。コミックの吹き出しやビニール袋や電球の形をした無機能なオブジェである。
また、ガラスというと感覚的に、無機質、冷たい、鋭利といった印象を持つが彼女の作品からはむしろユーモアや暖かみを感じる。ガラスの持つ素材のイメージを創作の動機とせず、本展タイトル「空気のしわざ」にもあるように、オブジェ内部に存在する「空気」を定着するためにガラスを使用し表現している。この点が佐野の作品の最大の特徴と言える。

アーティストがガラスを使用した作品を制作する事は決して珍しい事ではない。ただし、ガラスだけを使用するアーティストはそうは多くない。工芸的な内向きの議論から純粋芸術として如何にあるべきかを佐野は制作を通じて逡巡している。
評価はどうあれ、ユニークで新しさをまとった作品である事に変わりはない。この吹き出しの中にはどんな言葉が用意されているのだろうか。見る側のイマジネーションが容易に豊かになる。これらが展示された空間は、確実に人目を引き、笑顔を引き出す。
地上の物質であり得るかどうか分からないが、素材がもっと薄く、もっと実体を無くし、露にしたい形だけが純粋にある状態を見てみたいと思った。

来年のSICF14には招待作家としての展示の機会が与えられている。その時に如何なる作品が現れ、また、今後如何なる活動に発展して行くのか期待を込めて、注意深く見守って行きたい。

プロフィール

05グランプリアーティスト展

佐野景子 (さのきょうこ)

1985 年生まれ。静岡在住。
2007 年 武蔵野美術大学 造形学部 工芸工業デザイン学科卒業
2009 年 富山ガラス造形研究所 研究科修了

HPアドレス
http://www.sanokyoko.net/

【主な展示】
グループ・企画展
2009年 ガラス教育機関合同作品展
2011年 第 4 回現代ガラス大賞展 富山 2011
【受賞暦】
2009年 富山ガラス造形研究所 卒業制作優秀作品賞
2011年 第 4 回現代ガラス大賞展 富山 2011 優秀賞
グランシップアートコンペ 奨励賞
2012年 SICF13グランプリ賞

Photo: Katsuhiro Ichikawa